プラスチック部品は、一般的には材料を熱で溶かして金型で成形されていますので、割れたり、欠けたりした場合に機能が保てなければ、その部品(成形品)を修理するというよりは、その部品自体を交換するケースの方が多くなちがちです。
ところが、そう簡単には入手しにくい部品だったり、廃番品であった場合などは、部品を探す労力よりもプラスチックの修理ができれば簡単に解決します。
そんな割れや欠けてしまった樹脂のプラスチック部品を修理または再生する一つの方法として、プラリペアを使用して、その修理作業手順を紹介していきます。
ここでは、例として割れてしまったドライブレコーダーの樹脂ナットを修理する手順で解説していきます。
上の画像のように、ドライブレコーダーのホルダー部品の樹脂ナット部分が割れています。これを修理(再生)していきます。
この樹脂ナットは角度調整になるボール部分を常時押さえているため、ナットには外に広がるチカラが常にかかった状態になります。そのため構造上で割れやすい部分にはなりますが、半年は使用していないほどだったので、設計上の強度不足は否めません。
そんなこと言っても自然に直るわけもないので、割れた樹脂ナット(恐らく材質はABS)を修理していきます。瞬間接着剤で破断面同士を接着するだけでは、同じ個所からまた割れるはずです。理由は以下の通り
- 瞬間接着剤は衝撃には弱いこと(ドラレコなので車内に装着)
- 破断面が細くて接着面積が稼げない
- 常時外への圧力がかかっていること
これらのことから、破断面を接着する方法ではまた同じ個所が割れてしまうことが予想されるため、溶着型のプラスチックを新たに形成できる「プラリペア」で修理(再生)させることにしました。
ここで紹介する作業のプラリペアにはブラックを使用しています。プラリペアには各色が用意されていますので、修復部に近い色を選択できます。
プラリペアを知らない方のために簡単に説明すると、プラリペアは「粉」と「液体」からなり、二つを混ぜて硬化します。
5分程度で完全硬化しプラスチックと同化させることができるパテ+接着剤のイメージです。溶着なのでプラスチックを溶かして固着し一体化してしまいます。
プラリペアの使い方としては、接着剤ではなく溶着であるため、結合するライン上を両者削っておき、プラリペアの粉と液体の混合物を「盛る」ことで一体化させます。
一体化した後は最初から成形された樹脂かのようになって削ることもできます。大変便利なプラスチックの補修材なのですが、ホームセンターでも販売されている場合があります。
ここでは、「型取くん」も使用します。
温めれば柔らかくなって型として使用できる型取くんも一緒に使っていきます。材料的にはポリエチレン樹脂です。分かりやすいので「型取くん」で記事内は呼称を統一していきます。
最初に以下がプラリペアを使用する際の悪い例になります。AとBを接合させたい場合に、混合剤を盛っただけの状態です。
プラリペアの正しい接着方法
溶着型の悪い使用例
これでは肝心な破断面は接着すらしておらず、硬化すれば接着したような状態にはなりますが、盛った部分を削ればまた割れが出てきてしまいます。
表面上の薄い皮で持たせている状態で強度は期待できません。そのため、破断面を削って肉盛りできるようにしてあげることが正しい使い方になります。
溶着型の最適な方法
- 破断した面同士を底辺を先端(頂点)にして斜めに削る
- 頂点を突き合わせて固定する
- プラリペアを盛る→溶着される
プラリペアの場合は溶着のため、混合剤を盛ってあげる必要があります。
肉盛りできるようにするためと、破断面の面積を大きく取るためにも斜めに削ってあげるのこと最適な方法になり、強度を大きく持たせられるポイントになります。
作業的には電動のハンドリューターが活躍します。樹脂の加工になるのでヤスリでも削ることはできますが少し手間がかかります。
割れたプラスチックの再生作業手順
冒頭でご覧になったドラレコの割れた樹脂ナットをプラリペアを用いて結合修理(再生)していきます。先に説明した「最適な方法」でお伝えした通り、結合面(破断面)を削る作業が必要になります。
今回の作業には、割れた樹脂ナットを使用しているため、その内側にはネジ山があります。
結合面の一部にもなっておりますが、ネジ山まで「最適な方法」でお伝えしたような削ることはできないので、ネジ山もプラリペアで形成させるように「型取くん」と呼ばれるポリエチレンを使って内周に当てておきます。
今回の手順としては以下の順番になります。
- 型取くんを温める(熱湯に漬ける)
- 柔らかくなった型取くんをナット内周に当てる
- 念のためマスキングテープで割れの開き防止を補強
- 結合面をリューターで削る
- 削った溝にプラリペアの粉(アクリル)をまぶす
- まぶした粉に液体(メタルメタクリレート)を浸透させる
- 常温硬化(5分以上)
- 硬化した余分な部分を削る
- 洗浄して完了
1.型取くんを温める(沸騰したお湯)
型取りくんは、70℃程度で柔らかくなります。ここでは沸騰したお湯に漬けて直接温めています。
3分ほど経ってから取り出します。取り出す時は熱いので火傷に注意するためプライヤーで掴んでいます。
もともとは長方形のブロックですが、とろけるような状態になっており、あまり長く漬けていると糸を引き始めるほど柔らかくなってしまいます。
2.柔らかくなった型取くんをナット内周に当てる
画像左側が割れている部分です。ナットの内部に型取くんを適量にちぎって内面に押し当てます。まだ柔らかいのでしばらく放置しないと硬化しません。
樹脂ナットのネジ山をしっかりと再生させたいため、この後の作業で再生する樹脂がナット内に流れ込まないように塞き止める役割を果たします。
3.マスキングテープで割れの開き防止を補強
型取くんはで型取りましたが、このままでは亀裂部分が広がってしまうため、補強(抑えるため)にマスキングテープで外側を強めに巻いておきます。
後の作業で液体を流し込むと樹脂を溶かしますので、液体が余計に流れても防ぐようにマスキングテープで修正箇所周辺を覆ってしまうのも有効です。
4.結合面をリューターで削る
最適な方法で紹介したようなV時の溝を綺麗に削るほどナットが小さすぎてできないため、単純に溝を作っていきます。
この時、型取くんが無いとプラリペアを盛るときにナット内部に流れてしまいます。そのため、型取くんが活躍します。
樹脂ナットの部品が小さいため、雑な溝形状になっていますが持っているリューターの刃物の中で細いもので削っただけです。
型取くんが見えてくると削りすぎでもありますので、適当な感覚までで溝を掘っています。
この溝にプラリペアを埋めていきます。この溝の大きさからも分かるように接着ではありません。再生すると言ったほうが適しています。
5. 溝にプラリペアの粉をまぶす
プラリペアを溝に埋めていく方法は、2つの方法になります。
- ①粉の容器に液体を垂らして混合されて玉になったものを容器から取り出して溝に置き、液を更に注入する(ニードル法)
- ②あらかじめ粉を溝にまぶしておいて後から液体を浸透させる(ふりかけ法)
要は混合させれば良いのですが、①の方法ですと取り出した個体を何個も置いていく作業になるため、少し手際が悪いとうまくいきません。ニードル法はスポット箇所向きです。
そのため、今回は②の溝に粉をまぶしてから液体を浸透させる「ふりかけ法」で作業していきます。
粉の状態で削った溝の上に乗せてしまいます。そこに液体を注入し、粉と液を混合させます。
混合するというよりは(濡らしていく)浸透です。
混ぜる、練り込む必要は一切ありません。
6. 粉に液体を浸透させる
液体(メタルメタクリレート)を粉に目掛けて浸透させます。少々きついシンナー系の匂いはありますので、換気しましょう。
作業的には粉を濡らしていくだけのような感覚です。
この液体は樹脂を溶かします。そのため、作業時に必要以上に液体を垂らさないように注意してください。型取くんで緻密な形状を作っておくことが液漏れには有効です。
7.常温硬化(5分以上)
液体を注入したら水のように艶があるので乾いていないことが分かるはずです。しばらく放置して5分以上待ちましょう。
逆に硬化が早いので、液体を注入する前にしっかりと状態を再確認してから注入してください。硬化したら時を戻すことはできません。
完全に硬化している状態になったら、型取くんを取り出します。型取くんのおかげで余計なところまで形成されることもなく原型を維持してくれています。
しかし、多少のバリや硬化部分が盛りあがった状態なので、少し整えたいと思います。
内周の状態
ナット内部の一つ一つのネジ山までは完全には再生できていないようにも見えますが、位置が合っていればネジは通るのでこのままで良しとしています。
取り出した型から推測すると、ネジ山の割れ目にも粉が乗っているのが見えるため、大半は浸透してネジ山の割れ部分も形成されていることが確認はできます。
8.硬化した余分な部分を削る
バリや盛られた部分をリューターで削っていきます。本当に硬化した状態は元のプラスチックのようです。
液体のメタルメタクリレートは樹脂を溶かしてしまうため、まるで最初から樹脂成形されたかのように溶け込んで一体化(形成)してしまいます。これが強度のポイントです。
9.洗浄して完成
洗浄といっても、水で洗って粉塵類を落としただけです。リューターの刃に仕上げ用砥石が無かったので粗目の仕上げにはなっています。
ここでは、割れた部分の再生が目的なので完全に修復が分からなくなるほど仕上げませんが、仕上げたい場合は樹脂は磨くのは少し困難なので、「プラサフ」を吹いて、「研いで」から「塗って」しまえば完全に修復箇所も分からなくなります。
プラリペアには色があります。今回使用したカラーはブラックです。修復したい素材の色に合わせてプラリペアの色は選びましょう。修正箇所が目立たなくなります。
修理(再生)作業が完了したナットを装着
修復したドラレコのナットを元に戻して組み付けしてみます。その後、角度調整のボールを動かしたり強く締め付けてみたりしましたが、今までと同じようになりました。
しかし、修復部分は厚みが増して強度が出てしまいましたので、今度は樹脂ナットの別の部分で破断が生じる可能性は高いです。そもそも強度不足の設計品です。それまではこれで使っていきます。
更に強度を上げるためには、FRPなどの「ガラスファイバー」シートと一緒に溶着させてしまうこともできます。
最後に
今回のナット修正作業では、内周にネジ山があったため、適当な位置で結合させることができないこともあり「型取くん」を使用しています。
型取くんのおかげがポイントです。
型取くんは透明とはいえ半透明であり、今回の作業では樹脂ナットの内側から押し当てているので全く変形している状態は見えず、しっかりと相手側に追従できてるか半信半疑でもありましたが、大変良好かつ円滑に型取れていました。
型さえ作れば使えば新たに樹脂部を作ることもできます
ここでの作業は接着目的が強い題材となっておりましたが、割れて無くなってしまったカウルのステーなども型取くんとプラリペアを使って新しく樹脂部ができてしまいます。その強度も抜群です。
要するに、厚みが薄いものや小物であれば、型さえ作ればリペアではなく新たな樹脂のものを作ることができてしまいます。
この記事は機械加工の中でもアルミフルビレット技術を駆使して独自の観点によって「独創性のアイテム」を造り出す、alumania(アルマニア)の専門スタッフにより執筆されています。
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